胸騒ぎの腰つき


「今何時?」「そーね、大体ね」
サザンオールスターズの名曲、「勝手にシンドバッド」
この時計を見るたびに、あの歌を思い出します。

アラン・シルベスタイン 1995アーキテック ブラックトップ






アランらしさが爆発したようなこの時計!一目ぼれです。
ハートを、一本の矢が射抜いている、たったそれだけの意匠に、茶目っ気たっぷりのアランの得意げな顔が浮かぶようです。

この時計を、他の人に見せて「この時計、どこか変わっているんだけど、分かる?」
と聞くと、しばらく考えた後ほぼ100%の確率で、「秒針がハートだ!」と答えてくれます。

半分は当たりですが、重要な事が抜けています。あなたは分かりますか?。

実は、この時計には、分針がないのです。
つまり、青い矢の時針と秒針(ハート)とカレンダーのみの時計なのです。

この時計は、時間に縛られている人間を、思いっきり笑い飛ばしているのです。
「5分や10分、仕事に遅れたって、なんて事ないさ、それより恋をしようよ!」
アランの声が聞こえるようです。

ハード的に言うと、この時計のエボーシュは、ETA2892-2、ケースはステンレスのPVD仕上げです。
でも、この時計に限っては、そんな事はどうでもいいことです。
人生を楽しみたくなる、そんな時計です。

不満点は、竜頭がアラン得意の三角竜頭ではなく、普通のものである事、
そして、カレンダーが付いていることです。この二点が、僕としてはちょっと納得がいかないところです。
どうでもいい事なのかもしれませんが、シンプルさを徹底するためには、カレンダーが邪魔なような気がします。
デザインの未熟さ(?)は、アランが自らのアイデンティティを確立する途上にあった時計だ、ということなのかも知れません。

お遊びで、同じアランのクロノグラフと並べてみました。どうでしょうか。まったく対照的なのが分かります。
簡単に言えば「シンプル」と「複雑」、「軽薄」と「重厚」の対比とでも言いましょうか。
時の支配者としてのクロノグラフ、時の傍観者としてのアーキテック。全く異なる180度違うアラン、されどアランです。

このアーキテックで、流れる時を楽しみたい、そういう思いにさせてくれる時計です。



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