引き算の美学
敢て持てる物を捨て去る事により入手できる物。そこに禅の精神に似た美学を感じてしまいます。
ゼニス プライム
ゼニスは時計愛好家の間では、エル・プリメロというクロノグラフのムーブメントの開発メーカーとして、あまりにも有名です。
このエル・プリメロは、イタリアの有名なパネライのクロノグラフにも採用されています。
(開発メーカーであるゼニスより高価な価格で取引されているのは、皮肉ですね)
ゼニス社は、1865年にジョルジュ・ファーブル・ジャコが創業した時計メーカーです。
ムーブメントを自社生産する数少ないマニファクチュールの一つで、前述したクロノグラフのエル・プリメロと、
通常メカのエリートが現在生産され、パネライ等の他の時計メーカーにも、エボーシュとして提供されています。
エル・プリメロは毎秒10振動を誇るクロノグラフムーブメントで、モバードと共同で1969年に開発されました。
しかしながら、皮肉にも同年発売されたクォーツ時計がゼニス社を苦境に陥れ、ゼニス社はアメリカ資本に買収されました。
そして、機械式時計に関する全ての生産施設の廃棄が命じられた中、エル・プリメロは機械式時計の復活を信じる一人の青年技術者が、
屋根裏に隠匿したおかげで、その命脈を保ち現在に至っている訳です。その青年、シャルル・ヴェルモ氏には、感謝・感謝ですね。
エル・プリメロは本来、自動巻のムーブメントですが、そこからローターを省いてしまったのが、此処に掲載した「プライム」です。
「PRIMERO」からローターの「RO」を外したから「PRIME]。洒落が効いてますね。
自動巻の機械を手巻に改造するなど、本末転倒の話ですが、よほどの時計好きが企画したのでしょう。よく社内稟議が通ったものです。
発売は94年ですが、やはりセールス的には思わしくなかったようで、97年には製造中止になったようです。
発売当初の価格は定価32万円、コラムホイールを持った本格クロノグラフとしては、驚異的な安さでした。
早速ムーブメントを見てみると、ムーブの中心にローターを固定する3つの穴が見てとれます。そして確かにローターがない分、
コラムホイールを持った「エル・プリメロ」の構造がよく分かります。そして「420」のエボーシュの番号もよくわかりますね。
エボーシュとしての美しさは、やはりヴァルジュー23や、ヴィーナス175にはかなわないようです。(異論があるかも知れません)
ムーブメントの画像をクリックして頂くと、エルプリメロのムーブメントが、アップでご覧頂けます。
ダイヤル面を見てみますと、長くダイヤルの縁ギリギリまで伸ばされたクロノグラフ針がダイヤル外周でダイヤルに密着するかのように、
軽くカーブし、誤読を避ける工夫がなされています。ゼニスの真面目さ、毎秒10振動を誇る「エル・プリメロ」への自信を物語っているようです。
ケースはゴールドプレート、いわゆる金メッキを使用し、前述したように、32万円の定価を実現しました。
このことから、プライムは廉価版のエル・プリメロという見方をされることが多いようですが、それだけではなく、
違った魅力を持った時計好きのための機種という見方が出来るのではないでしょうか。
今、ゼニスはLVMHのグループの傘下となり、オープンハートなどの洒落た時計を作っています。
プライムも「クラス・エル・プリメロHW」として2000年に復活しました。、これからも更に高級路線になって行くのでしょう。
でも、少なくとも私はプライム等を作っていた、いま一つ垢抜けないゼニスが大好きでした。